ジーコとケンジの欲望の記録

雨ニモマケテ、風ニモマケテ、慾マミレ、サウイウヒトガ、コノワタシダ

死を悟り、俺はカウンセリングを受けねばならぬと思った

「俺、このままだと心が死ぬ…」

 

ある朝、目を覚まして、そんなことを考えた。教員時代の話である。

 

職場が変わり、初めて担任というものに就き、やらなくてはならないことが山のように増えた。

 

だけど、なかなかやらねばならないタスクが片付かない。時間がどんどん過ぎていく。ギリギリになる。失敗する。叱られる。自己肯定感が削られる。自信を失う。目の前のことから逃げがちになる。タスクが積み重なる。崩れる。失敗する。叱られる。自己肯定感が削られる。自信を失う…(以下、エンドレス

 

死ぬ、と思った。この負のループから抜け出さなければならないと思った。しかし、自分で「これからはこうしよう」と決めても、決めたことがプレッシャーになるのかなんなのか、自分で決めたことさえを守れない。逃げだそうとする。

 

そこでカウンセリングというものを受けてみることにした。もう、プロにお金を払って、自分の苦しみを取り除いてもらうしかない。

 

カウンセリングというものは初めて受けるのだが、カウンセリングの方法については本を読んである程度は勉強はしていた。カウンセラーはクライアント(相談者)の悩みにアドバイスして解決するのではなく、クライアントの話に共感し、頭の中を整理してあげて、どうしたらいいのかをクライアントの中から引き出す手伝いをする。

 

だから俺も、自分が気づけてないことを引き出してもらいながら、この「ダメな自分、死ね!」状態から脱却したいと考えていた。

 

色々とカウンセリングをしてくれるところを探し、精神科が併設する渋谷の某メンタルクリニックに行くことにした。

 

受付で書類を渡される。書類に名前や生年月日、職業などの基本事項を記入していき、最後に「あなたが今、悩んでいることを教えてください」みたいな項目があったので、

 

「自己否定が止まらない」

 

という1行を書いた。自己否定で、胸が胸が苦しくなる。死にたい切なさは止まらない。

 

そして名前を呼ばれてカウンセリングルームへ。50代くらいの女性が笑顔で俺を迎えてくれた。

 

いきなり本題に入らず、天気のこととかそんな他愛のない話で、場を和ませてくれた。なんだか、近所のおばちゃんと話をしているような安心感を抱く。

 

「さて、それでは本題に入っていきましょうね。書類を見せてもらいますね…なるほど、『自己否定が止まらない』っていうことですけど詳しく教えてください」

 

自分の書いた1行を読み上げられ少し恥ずかしくなった。もっとちゃんと書いておくべきだったな。

 

それから俺は、今自分が何に悩んでいるのかを話した。やることが片付かない、やることから逃げてしまう、いつもギリギリになる、失敗する、叱られる、自己否定、さらに逃げる、失敗、叱責、自己否定、死にたみがやばたにえん、死にたみがやばたにえん、死にたみえん、生きるのがむりちゃづけ…

 

カウンセラーは丁寧に話を聞いてくれた。色々と質問をして引き出させてくれたし、「ギリギリになっても何とか形になるからそれがクセになってるのでは?」と自分では気づかなかった部分を掘り出してくれたりした。

 

しかし、カウンセリングを受けながら、俺はカウンセラーの質問や話す内容を頭の中で分析していた。「これが共感か」とか「これがリフレーミングか」とか「これがリフレインか」とかとか、そんな本で読んだカウンセリング技術のことばかりを考えてしまい、肝心の「悩みの解決」についての意識が置き去りにされていた。

 

「…ということで、そろそろ時間となりました。では、まとめましょうか」

 

時計を俺に向ける。そして俺は我に返った。

 

こうして俺の悩みを聴くのは、この人にとって仕事の1つでしかないんだな…

 

俺はこんなに苦しくて助けて欲しい気持ちだけど、この人にとっての俺は「本日のクライアント」の1人でしかなくて、俺がここを出て行った後は別の人と話をして、仕事が終わったら、俺のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまう…

 

当たり前のことだ。当たり前のことだけど、なんだか寂しい気持ちになってきた。

 

面倒くさいな、俺。

 

最後にどうしていくのか、課題を引き出してもらい、次回の日時を決めて30分間のカウンセリングは終了。

 

終わった後は気持ちがスッキリして自信を取り戻せているかと思いきや、思っていた程の効果はなかった。いや、たった一回のカウンセリングでモヤがスッキリする訳はないけど。

 

カウンセリング内で立てた課題も、やっぱり上手くできず。でも「課題はできませんでした」とか言うのも気が引けるから、何か言い訳をして誤魔化してしまっていた。

 

その後、3〜4回くらいカウンセリングを受けたものの、結局、通わなくなってしまった。死にたにえんは止まなかった。

 

俺のことを知らないカウンセラーにお金を払って話聴いてもらうのならば、職場の人や友人や家族に相談にのってもらった方がいいと思った。