ジーコとケンジの欲望の記録

雨ニモマケテ、風ニモマケテ、慾マミレ、サウイウヒトガ、コノワタシダ

私が教師を辞めるまで⑤

初めて受けたIT企業の面接。最初は「31歳で未経験がエンジニアになろうとするとは、なにゆえぞ?」と訝しがられたが、話していくうちに社長と意気投合して話が弾み、仲が良い感じになって面接を終えた。


面接後、課題は期日までに必死に勉強し、なんとか提出をした。翌日の朝には「課題を確認するので数日待ってほしい」との連絡が入った。まぁ、最低限のことはやったし、及第点くらいはもらえるだろう。未経験なのだから、ある程度の間違いがあっても大目に見てもらえるはず。それに、この前、あれだけ長く話して打ち解けられたのだから、人柄採用の可能性もあるだろう。


そして、俺はもうすっかり決まったつもりでいたので、次の役員面接のことを考えていた。


しかし、待てど暮らせど結果が返ってこない。数日間がとてつもなく長い。


かといって催促のメールを送るのも憚られる。もしかしたら、突然のトラブル等で俺のことを考えられないくらい忙しくなっているのかもしれない。


そんなこんなでメールを頻繁にチェックする日々を送っていたら、3月も終わりに近づいた。最後の勤務日である3月30日では、職場で納会を兼ねた送別会が行われた。


「先生が今年度でお辞めにやると聞いて驚きました。次はどこかの学校でお勤めになるんですか?」


「いや、私はもう、教師ではない他の職業に就こうかと考えていまして。ITの世界に飛び込もうと思って…」


「ぇー、そうなんですか、もったいない。もう、就職先は決まっているんですか?」


「いえ、まだ結果待ちで…」


と、なんとも歯切れの悪い会話をあちこちでするハメになった。その会の合間にトイレに入って、メールをチェックする。しかし、メールは来ていない。


それから3月も終わってしまい、4月になった。


4月最初の平日。テレビでは新社会人の話や新生活の話などがたくさん取り上げられていた。俺は初めて「無職」という肩書きになった。


朝、起きて、久しぶりにロードバイクに乗って、お気に入りの場所に出かけた。1人でボーッとできる、人の往来の少ない場所だ。今まで仕事やプログラミングの勉強等で、ずっと乗っていなかった。

 

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空がとても青くて、気持ちがよかった。これが自由の空か。

 

これが自由なのだと解放感に満ち溢れていた。もう、これからは授業のことや生徒対応のことなど、常に10個以上あった「やらねばならない」ことを考えなくても済む。休日だって頭の中からずっと離れず、心休まる時間なんか無かった。失敗ばかりで「なんで自分はできないんだろう…」と溜息をつくことももうない。自己否定に苦しめられる日々からも卒業だ。

 

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今日は俺が自由を手にした日ということで、手帳には「独立記念日」と書き込んでみた。


自由を手にした青空を眺めながら、ケータイをチェックする。自由になったものの、未来は見えないでいた。さすがに4月に入っても連絡がないのはおかしい。課題を提出してから1週間以上は経過している。面接でも、3月中に決まらないと無職になってしまうという旨は伝えたはずだ。


さすがに催促のメールを送ってもいい頃だ。俺は、企業に課題についてどうなっているのかのメールを送信した。すると、すぐに返信がきた。


「遅くなってしまい申し訳ありません。すぐに課題のチェックをし、結果を今日の午後には返信いたします」


って、まだチェックしていなかったのか!!


驚いた。もし、俺がメールを送らなかったら、完全に無視されていた。課題を送った翌日に連絡を送ってもらったものの、あれから中身さえ確認さえしてくれてなかったのだ。


しかし、ポジティブに考えれば、これは採用前提だからかもしれない。採用前提だからこそ、課題のチェックをそこまで念入りにしなくてもいいという考え方だったのかも。まさか、ここまで引き伸ばされて不採用を突きつけるなんてことはないだろう。


ニートになった俺の生活は1週間くらいなものだろうと思った。すぐに役員面接の日程の確認がきて、採用されると思っていた。


平日の昼間に、空を眺めてボーッとしているなんて生活は長くは続かないだろう。


「いやー、ニートになったけど、わずか1週間で終わったよ。人生、ニート生活歴が1週間できちゃったよ、テヘペロ☆」


って、来週くらいには笑っているんだろうな。


一通り自由を謳歌し、帰宅した頃には夜になっていた。それからケータイを開き、メールをチェックする。すると、企業から課題の結果が返ってきていた。


「課題をチェックしました。添削の結果を添付するので今後の学習の参考にしてください。また、採用の件ですが、慎重に検討しましたが、残念ながら不採用とさせていただきます」


今まで解放感に酔いしれていた俺は一気に青ざめた。全身が熱くなっていき、頭に血が上っていった。


不採用。


まさかの、不採用である。


これだけ待たされて、催促のメールを送ってようやく返事がきて、不採用。


逆だったのだ。採用前提だから、課題のチェックが遅れたのではなく、不採用を前提としていたから課題をチェックしなかったのだ。もしかすると、そのまま流そうとしていたのかもしれない。


メールの文言の「慎重に検討」とは、一体何を検討したのか、俺がメール送るまで動かなかったクセに。

 

そして、面接で日付が変わるまで話した時間はなんだったのか。なによりも、この結果を待ち続けた時間はなんだったのか。

 

3月の1週目に応募し、2週目に書類選考通過の結果を受け取り、3週目に1次面接をして課題を提出し、4週目に結果を待ち続けた。この1ヶ月間の結果がこれである。


俺のニート生活は終わりではなかった。むしろ、ここからが俺のニート生活の始まりだった。

 

俺も悪いのだ。1社では無く複数の企業に応募しておけば、4月までにどこかしら決まっていたはずだ。

 

続く!!