喫煙者の仲間入りをしてみようと思ったんだよ
「ストレスに耐えられなくてね、吸うようになったんだよ」
たばこを最近吸うようになった人たちが言う。
気がつくと俺の周りは喫煙者だらけになっていた。
みんな目を細めて、タバコに火をつける、煙を吐き出す。
ちょっとだけニヒルな顔になる。
「自分の寿命を自分で減らしているのは分かってる。だけど、やっぱり吸っちゃうんだよね・・・」
ストレスに耐えきれず、タバコと付き合うようになった人の哀愁。
ちょっとカッコイイ。
そして、気がつくと俺の周りは喫煙者だらけになっていた。
みんな美味しそうに煙を吐き出す。
なんだか自分だけ仲間はずれにされている気分になる。
「いいんだよ、吸わなくて。たばこなんか百害あって一利なしさ」
という言葉の裏に
「お前はストレスなんか感じない鈍感な人間だな。いいな、羨ましい限りだぜ」
という皮肉を感じる。
だから、俺もたばこを吸ってみることにした。
たばこを燻らせて
「いやぁ、ストレスに耐えられなくなってね。体に悪いのは分かってるよ。でも、ストレスに苦しむ毎日を送るくらいなら、早死にした方がマシだぜ」
ってニヒルな笑みを浮かべてやる。
ちょっとカッコイイ。
だけど、喫煙者になるのって予想以上に難しい。
まず、たばこの買い方を知らない。
コンビニにいくと、たくさんのたばこが並べられている。
レジの前に立ち尽くすと、店員が「どうぞ」と俺を催促する。
困った。
いったい、何がどう違うのか。
喫煙者は平然と
「マイルドセブンのうんちゃらかんちゃらで」
みたいに、店員に告げるのだろう。
しかし、俺には全て同じに見える。
とりあえず、キラキラしたパッケージのやつを選ぶ。
たばこを買っている自分にとてつもない違和感を覚える。
年齢確認のボタンを押す手が少し震える。
酒を買うときは一切ないのに。
成人してから10年経っているというのに。
着火してタバコに火をつける。
きたきた、ここで目を細めて着火だ。
しかし、ニヒルな顔をしたものの、煙を吸った途端にむせる。
呼吸を落ち着かせて、再び、吸う。
むせる。
吸う。
むせる。
「あら、あなた、タバコを吸うようになったの?」
母に驚かれる。
ほら、きたきた。
ここでニヒルな顔。
吸う。
「いやぁ、ストレスに耐えられな・・・ゴフッゴフッ・・・てね。タバコを吸って気持ちを・・・ゴフッゴゴッッゴッフォフォ・・・紛らわせ・・・ブウォッホフッゴッフォッゴフォ」
むせる。
「あなた、止めときな、体に悪いんだから」
「だけど、タバコを吸わずには・・・ゴッッゴゴッゴッゴゴッッゴッフォッフフッフォ」
むせる。
ひたすらむせる。
ニヒルな顔どころか、目から涙が出てくる。
たばこの先と吸い口が真っ黒。
体に悪そうなことしてる感満載である。
そして全て吸い終わった後、口の中に煙の味が残る。
手にも煙の臭いがついている。
これが、ヤニ臭ってやつか。
俺も喫煙者の仲間入りだな。
ちょっとニヒルな笑みを浮かべてみる。
だがしかし、とっても臭い。
自分の口臭に嫌悪するなんて滅多にないが、これは臭い。
ダメだ。
それに、歩くとフラフラする。
ヤニクラッシャーってやつか。
なんてことだ。
思い描いていたのとは違う。
止めよう。
俺は喫煙者にはなれない。
ネットでたばこについて調べてみる。
肺がんや口腔がんのリスクとか、歯が黄ばむとか、ニコチン中毒とか、リスクばっかり。
その中で
「スモーカーフェイス」
っていうのを初めて知ってビビった。
「喫煙者は禁煙者よりも老けて見えます。元に戻りません。たばこは見た目にも影響します」
スモーカーフェイス。
なんて恐ろしい。
そんなフェイスは嫌だ。
止めよう。
たばこを吸ったことがストレスになってしまった。
だから、止めよう。
俺は喫煙者にはなれない。
俺は喫煙者にはならない。