ジーコとケンジの欲望の記録

雨ニモマケテ、風ニモマケテ、慾マミレ、サウイウヒトガ、コノワタシダ

決まりを守らないことはできない俺の話

ある日、俺は駅から自宅までの道を自転車で走っていた。時間は0時過ぎくらいだったと思う。

 

途中、赤信号だったので止まった。だが、遅い時間だったので車は走っていない。周囲に人の姿もない。しんと静まりかえっている中、赤信号が俺の帰りを妨害している。

 

「いいや、渡っちゃえ!」

 

俺はペダルに足をおいて赤信号を突破した。車が通らないのに立ち止まっている時間ほど無駄な時間はない。早く帰りたかった。

 

その日は運が悪かった。信号を渡った先にパトロール中の警察官が2人、立っていたのだ。しかし、少し距離があったことや別の方向を向いていた為、向こうは俺の信号無視に気づいていない様子だった。

 

俺はすぐにハンドルを返して別のルートを走り出した。俺が認識していないだけで、もしかしたら彼らは俺の信号無視を見ていたかもしれない。あるいは、俺が来るのを待ち構えているのかもしれない。自ら火の中に飛び込むなんて馬鹿げたこと、できるものか。

 

そして警察の視界から姿を消し、ほっと胸をなで下ろした。あとは、少し遠回りをしていけば大丈夫。いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ・

 

「ちょっと、すみません、止まってください!」

 

その時、バイクの音と同時に後ろから俺を呼び止める声がした。ドキッとして振り返ると、そこには1台の白バイに乗った警察官の姿が。

 

しまった、逃げられなかったか…

 

抵抗すると事態を余計にこじらせるだけだと考えた俺は、素直に警察の停止の命令に従った。

 

そして逃げも隠れもしないという素振りをし、警察館と対峙した。

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「今、あなた、私たちの姿を見て急に道を変えましたよね?」

 

「え、そうでしたか?」

 

「はい、私たちにはそう見えました。何かやましいことでもあるのではないかと?」

 

何か嘘を言わなくては!と一瞬考えたのだが、これまでの人生経験から嘘をついたところでロクなことが起こらないことは学んでいる。嘘をつくことで話が余計にややこしくなるのは避けたい。

 

「えっと…その…信号無視をしてしまいまして。信号無視をした先に警察がいたので、マズいと思い…その…思わずハンドルを切ってしまいました」

 

「じゃぁ、守れや! 悪いことをしているという認識があるならば、ちゃんと信号は守りなさい」

 

急に説教モードに変わる警察官。

 

「今、話を聞きました。どうやら信号無視した為、我々の姿を見て逃げたそうです」

 

肩の無線を外して、おそらくもう一人の警察官であろう人へ連絡している。

 

そして再び俺に向き直り、信号無視したことを叱責。それから俺の乗っている自転車が盗難車ではないか、番号をとられて本部らしき場所へ照会された。盗難車ではないことを確認すると「信号は守って」と最後に念を押され、俺は解放された。

 

それ以来、俺はその信号はしっかりと守るようになった。先日、その信号を無視した人が、渡った先で警察官に注意を受けているのを見た。危ない。本当に無視して渡った先にどんなトラップが待っているか分からない。

 

悪いことはするものではない。どこで誰が見ているか分からない。そんなことを考えてしまう俺は、この先、決して悪人にはなれないのだということを痛感した。いや、なってはいけないんだけどね。