ジーコとケンジの欲望の記録

雨ニモマケテ、風ニモマケテ、慾マミレ、サウイウヒトガ、コノワタシダ

私が教師を辞めたあと①

これまでのあらすじ。


1次面接で社長と意気投合し、採用確定だろうと勝手に思っていたところ、不採用の通知を受け取った俺。その日からニートとしてゼロからのスタートを歩むことになった。


不採用通知をもらい真っ青になった俺は、すぐに転職サイトを開き、未経験でエンジニアとして募集しているところをあさった。あさりつつ、その企業での実際の労働環境も調べながら慎重に応募した。


かれこれ10社近くはエントリーしたと思う。しかし、その後は書類選考で落とされたり、返事が来なかったりと面接以前の段階で落とされてしまった。


何がいけないのかは予測はできていた。今までITとは無関係の職種であったこと、実務経験が全くないこと、年齢が30歳を越えていること…エトセトラエトセトラ


その中で何社かは実際に面接を取り付けることができた。


早速、1社目の面接に向かうことにした。履歴書と職務履歴書をもって企業へ訪れる。平日の昼間、都内。大学が近くにあり、学生たちが楽しそうにあるいていた。


「そういえば、この大学、昨年度受け持った生徒たちがが数人進学したんだよな」


もし、彼らが俺の姿を見たら何を思うだろうか。自分たちの進路を指導してくれた先生が、今の職を捨て、就活に奔走している。


惨めだな、俺。こんな見っともない姿は見られたくないな…


会社に着き、応接室に案内される。出てきたのは、20代半ばくらいの若い社員だった。IT企業は全体的に若い人が多いから、特に驚きはしなかったが、立場的には企業の社員と求職者。複雑な気持ちになる。


なぜエンジニアを目指そうとしたのか、これまでスクール等でどんなことを勉強していたのか、諸々のことを聞かれた。


「今回、実務未経験でエンジニア希望ということですけれど、ただ、これは言わせてください。30代で実務未経験でエンジニアを目指すのは相当厳しくなります。30歳くらいは、もう、ある程度の経験を積んで、リーダーくらいの地位になってますからね。そういう条件でも採用してくれる企業を探してみますね」


ぇ?


企業を探す、とは?


この会社に就職させてくれるわけじゃないのか。


「弊社は転職サービスをしておりまして、そのサービスにご登録を頂き、弊社から希望に合う企業をご紹介しております。今回、そのサービスのご紹介をと思いまして、いかがでしょう、弊社の求人紹介サービスに、ご登録されますか?」


ここで俺は気がついた。この企業は最初から俺を採用するつもりでなかったのだ。話を聞く体で俺を呼び、最終的に自社サービスに登録させるだけだったのだ。


その後も年齢的に募集している企業が多くはないこと、仮にあったとしても大卒初任給並の給与となること、これからかなりの勉強をし続けなくてはいけないことなど、厳しい面を懇々と説かれた。


「では、登録についての詳しいメールを改めて送りますので、よろしくお願い申し上げます」


時間にして30分弱。俺は屈辱的な思いを抱きながら、企業を後にした。


ここですっかり自信を喪失してしまった。やっぱり年齢の壁は越えられないのか。新しいことを始めるのは無謀なのか。


バカなことしてる? 今までずっと教員をやってきたのだから、これからも続けるべきだったのか。このまま無駄なことは考えずに、教員としてのスキルを身につけ、生涯を教育に捧げていけばよかったのか。


そもそも、他のことをしたいと思うこと自体、教職に対してしっかりと向き合わなかったからなのではないか。そんなことで他のことに向き合うことができるのか。


もう、エンジニアなんて未知な分野を考えず、今から非常勤として募集しているところに行くべきか。または塾講師とか学校以外の場所で勉強を教えていくとか。


やっぱりバカだったか、軽率だったか。もっと現実を見るべきなのか。


もし、このままずっと決まらなかったら、どうするつもりなのか…

 

そして、この企業からのサービス登録のための連絡は来なかった。完全な無駄足だった上に、屈辱感と無力感で苦しめられただけだった。


続く!