ジーコとケンジの欲望の記録

雨ニモマケテ、風ニモマケテ、慾マミレ、サウイウヒトガ、コノワタシダ

私が教師を辞めるまで

プログラミングに出会い、その楽しさに魅了され、エンジニアになりたいと思うようになった。


プログラミングに出会ったのが、5月くらい。授業の内容を考えていた時だから、まだ新学期が始まって間もない頃だ。


しかし、今まで教職以外、考えたことがなかった(作家になりたいとかブロガーになりたいとかいう確実性のない夢はあったものの)から、本当にそれでいいのかは悩んだ。周りに相談はしなかった。相談したところで


「ぇー、教師辞めちゃうの、もったいない。今までやってきたのに、辞めちゃうの? 続けなよ。今のところが合わないなら他の学校で先生やればいいじゃない。そもそも、自分は何で教師になろうと思ったのか、原点に立ち返って…」


と説得されるだけだと思ったからだ。もし、自分が相談される側だったら、たぶん、説得する。


しかし、色々と調べていくと、全くの未経験からエンジニアになろうとするのは厳しいとのことだ。この業界は実務経験が全て。今まで何をやってきて、どんなスキルがあって、何を得意とするのか。学歴や社会人経験などは全く関係ない。まぁ、技術職なんてそんなものか。


そして、立ちはだかるのが年齢の壁。未経験でこれからエンジニアとして就職をするならば20代まで。それよりも上にいくと厳しいとのこと。エンジニアの世界には「35歳定年説」というのも存在するらしい。


理由としては、2つある。1つは、体力と頭が追いつかなくなるから。ITの世界は日進月歩で進歩していき、身につけた技術がすぐに古いものになってしまう。ある程度、歳をとると新しい技術を学ぶ力が衰えていく。また体力と精神力が衰えて動けなくなってしまうから、というのがその理由だ。


もう1つは、IT企業は比較的若い役員が多いから、歳のいった人を採用し辛いということ。別のところで、エンジニアとしてバリバリやっていた即戦力なら採用するところだが、自分たちよりも歳上の人を未経験で採用して育てていくというのに抵抗がある。まぁ、確かに。


そこで考えたのは、プログラミングを学べて就職支援もしてもらえる専門学校のようなところに通う、ということだ。探したら、ちょうどよいところが見つかった。7月から開講し、6ヶ月の講義と転職支援サービスをしてくれるとのこと。7月から6ヶ月だから、3月まで転職の支援をしてくれる。つまり、年度が終わる、ちょうど3月まで。そして対象の年齢は31歳まで。


さっそく話を聞きに行くことにした。エンジニアなんて、今まで関わってきたこともない、自分とは縁のない世界だと思ったから、なんだか違和感があった。今まで教師としてやってきた自分への、背徳感もあった。


面談してくれた人は、俺がネットで調べたことと同じことを話してくれた。


「実務の経験年数が一番で、実務経験が無い人は何ができるのかをアピールするためのポートフォリオ(制作物)がないといけません。また、コネクションもある程度必要で、未経験の人がただ飛び込んで「働かせて下さい」と言っても、門前払いを喰らうのがオチですね。それは『実務未経験、歓迎!』と謳っている企業も例外ではないです。実務未経験だけど学校で勉強していたとか、または、エンジニアといいながら就職したら違うことさせるブラック企業か」


そしてやっぱり、年齢のことも言われた。


「未経験ならば年齢は気にされます。どんなにやる気があっても年齢で落とされるところは多い。だから、私どもでは『誰でもOK』のようなことは絶対にいわず、31歳年齢制限をかけています。とはいえ、31歳も正直、厳しいです。これはもう、ギリギリのラインですね」


なるほど、エンジニアになるにはタイミングが大事なのか。日本はITエンジニアが不足していることも色んなところに書いてあった。優秀なエンジニアは、みんな海外に行ってしまう。エンジニアの給与も日本はダントツで安い。そして年齢や実務経験で切ってしまう。これじゃあ、日本で万年エンジニア不足になるわけだ。徹夜業務や休日出勤が多いのも頷ける。


「ところで、なぜ、今まで教師をしていたのに、エンジニアを目指そうと思ったのですか? 差し支えなければ教えて頂けませんか?」


そこで俺はこれまでの経緯を説明した。授業でプログラミングをやろうと思ってPythonに触れたこと、それが面白すぎてプログラミングを仕事にしたいと思ったこと、教師という仕事に限界を感じてしまったこと…エトセトラエトセトラ


初めて自分の気持ちを誰かに話した。今まで誰にも話せずにいたことを全て話した。絶対に引かれてしまってるだろうと思うくらいに、話して話して話しまくっていた。話すことで、それまで溜め込んでいたモヤモヤを吐き出せたような気がした。


しかし、だ。プログラミングを教えてくれて、転職支援までしてくれるのはいいのだが、その学費がなかなかのもの。半年間で、その値段は正直安くはなかった。値段はここでは書けないけど。


そこで、即決せず、ひとまず持ち帰らせてもらうことにした。一度、冷静に考えてから、また来ると。


そこから自問自答の日々が始まる。プログラミングを仕事にしたい、とは思ったものの、これまでキャリアを捨てて本当にいいのか。教師という職業に未練はないのか。これまでの苦しみは全て報われないまま終わるんだぞ。


しかし、しかしだ。別にそのスクールに入ったからといって必ずエンジニアにならなければならない訳ではない。やっぱり教師を続けたいと思ったら、それでもいいじゃないか。確かにかなりの金は無駄になるけれど、でも、高い勉強代だったと思えば。失った時間は取り戻せないけど、失ったお金は後で稼いでいけばいい。一生、借金を背負うわけでもないのだから、思い切って飛び込んでみよう。


ということで、そこから俺のエンジニアへの道(未知)が始まったのである。